言語が違うと文化が違う、文化が違うと常識が違う~語学力よりも重要な異文化理解

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英語やその他の外国語を学んでいる日本人、また外国人と接することがある日本人が、語学のこと以上に学んでおく必要があるのが、「文化の違い」についてです。

日本は、隣の国から泳いで来られない距離に位置する島国です。それゆえ、日本の文化と他国の文化には多くの違いがあります。性格の違いなどの個人差や地域差ではなく、「文化の違い」というものが明確に存在するのです。この「文化の違い」を理解しておかないと、自分は悪くないのに嫌な思いをしますし、最悪日本人だけが損をします。

特に外国語を学ぶ人は、その言語の背景にある文化も学ぶ必要性があると言い切っても過言ではありません。今回は、文化の違いについて学ぶことの重要性や、参考になる書籍を紹介します。

●言葉が通じても、物事がうまく進むとは限らない。

英語を身に着けた日本人が、いざ英語で他国の人とやり取りを始めます。すると、英語自体は通じているようなのに、物事がうまく運ばなかったり、困ったり、時に不愉快な思いをすることが多々発生します。実例を挙げると、上司である日本人が、外国人の部下にこういう風にやってくれと具体的に指示を出したところ、部下は指示通りにやらず、自分のやり方でやろうとしました。それを指摘すると、今度は言い訳をする。結果、本人がミスをしても謝らない。

日本人同士の場合であれば、特別な事情がない限り、部下はまず上司の指示に従うでしょう。まして、自分がミスした場合に、謝罪の言葉を何も言わないということはありえません。少なくとも、「すみません」の一言は言いますね。

同じ言語でやり取りしているのに、なぜこういうことが起こるのか。それが文化の違いです。元々自分と異なる言語を話している人間は、文化も異なるのです。それはつまり、常識や価値観、倫理観も異なるということです。

●言葉が通じても、文化が違う~日本の文化と台湾の文化は似ていない

英語以外の言語でも、同様です。日本人と台湾人が、お互い中国語で会話をしていたとします。意思疎通は問題なくできている状況です。しかし、台湾人の中には、初対面でも「家賃いくら?」と聞いてくる人がいます。「給料いくら?」と聞いてくる人もいます。

大部分の日本人は、お金のことを質問するのは失礼と習っているでしょう。ましてや、初対面で家賃の額を聞くことなど、もってのほかです。筆者も初対面の台湾人に家賃の額を聞かれて、最初はドン引きしました。ところが、台湾人にとっては普通のことなのです。失礼なことを聞いている自覚はありませんし、意地悪で言っている訳でもありません。これは日本の常識と台湾の常識が異なるからです。

同じ言語で会話できたとしても、日本人の文化と台湾人の文化には、このように大きな違いがあります。はっきり言って、日本の文化と台湾の文化は全く似ていません。

●日本と異なる文化を学ぶ方法。

筆者のように、学生時代に文化について専門的に学んでいる人間はまだしも、そうではない社会人はどうしたら良いでしょうか。

一ヵ国とだけ接点があるという場合は、その国の文化について調べれば大丈夫です。アメリカならアメリカ、スペインならスペイン、といったように、ピンポイントでその国の文化について調べましょう。その後、地域差が大きい国の場合は、地域ごとの文化の違いを確認すれば充分です。

方法としては、まず当事者に聞けるようであれば、直接当事者に聞くこと。その他、書籍を読む、経験者の話を聞く、現地在住の人の体験談を参考にする、専門家による講座などに参加するのも良い方法です。

しかし複数の国の人と関わっている場合や、国ごとの文化の違いを全体的に把握したいという人には、以下に紹介する『異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』を一度読むことをおすすめします。特に今現在社会人で、外国人とのコミュニケーションに困っている人に適しています。多国籍グローバル企業で働く人、中でもプロジェクトマネージャーレベルの人に最適の内容になっています。

●『異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』

この『異文化理解力』では、ビジネススクールINSEADの客員教授である著者エリン・メイヤーが、ビジネスで重要な点を8つの指標に分け、各国の文化の違いを身近なケーススタディとともに解説しています。

自分と異なる文化圏に属する上司や同僚、クライアントと仕事をする時に、この8つの指標が物事をうまく進める手助けになります。ただし、一つ一つの文化について、詳しく掘り下げて説明している訳ではないので、そこは注意してください。

あくまでも相対的な指標ですが、隣の国であってもこれだけ考え方が違う、ということを改めて知る良い目安になります。また西洋文化圏の中でも、アメリカ人とフランス人、ドイツ人の考え方が随分と異なることも理解できます。

さらに英語勉強中の人は、原書を読むのも良い方法です。中学レベルの英語が理解できていれば、充分読める内容になっています。

・隣国であっても、文化は大きく異なる

例えば、日本と中国は地理的には隣に位置しますが、文化としては異なる点が多いです。この本の8つの指標から、「決断」と「スケジューリング」を例に見てみましょう。

図:「決断」の各国分布

「決断」の各国分布

まず「決断」について、日本は左の「合意志向」で最も左側に位置し、決断はグループ全員の合意の上でなされる文化です。しかし中国は右側、決断はたいてい上司である個人によってなされる「トップダウン式」に位置します。

図:「スケジューリング」の各国分布

「スケジューリング」の各国分布

また「スケジューリング」の点では、日本は左側の「直接的な時間」側に属し、締め切りとスケジュール通りに進むことをよしとします。しかし中国は右の「柔軟な時間」側にあり、場当たり的に作業を進め、邪魔が入っても受け入れられるので、順応性が大切となります。

このように、隣の国だから文化が似ているということは一概に言えません。特に日本は島国ですから、隣国であっても、文化的には異なる部分の方が多いと考えておいた方がむしろ無難です。

・多文化チームを率いることのデメリット

正直なところ、読後に「多文化チームを率いることは面倒くさい」という感想を抱く人もそれなりにいるでしょう。実際、この本では、多文化チームを率いることのデメリットにもふれています。実に重要で示唆に富んでいる部分なので、以下に一部を引用して紹介します。

文化の違いは多くの難題を伴う。効果的な文化間の連携は単一文化内での連携よりも時間がかかることがあり、より慎重なマネジメントが必要になることが多い。(中略)

第一に、多文化チームにおいては、文化の違う人々をできる限り少数にすることで時間を節約することができる。(中略)

第二に、他文化との連携を図る前に大目標を慎重に検討すること。目標がイノベーションや創造性にあるのなら、プロセスが慎重に運営される限り、文化が多様であればあるほど良い。しかし目標がスピードや効率性だけにあるのなら、そのときはおそらく多文化よりも単一文化の方が良いだろう。単純に、その土地のことはその土地の人に任せてもらった方がいい場合もあるのだ。(p.151-152 Kindle版)

・日本の場合は、まず多文化よりも単一文化

ここで、日本の会社や組織を思い出してみてください。何か一つ決めるにしても、スピードや効率性が良いとは言えないことの方が多いのではないでしょうか。そんな状況ですから、大部分の会社や組織では、イノベーションよりもスピードと効率性の向上を目指す方が先でしょう。つまり日本の場合は、まず多文化よりも単一文化で取り組む方が良いということです。

●『多文化世界 – 違いを学び未来への道を探る 原書第3版』

上記の『異文化理解力』は、サブタイトルに「ビジネスパーソン必須の教養」とあるように、ビジネスシーンにおける文化の違いに焦点をあてたものです。ビジネス以外の部分での文化の違いや、国ごとの文化の違いをより専門的に学びたい人におすすめするのが、この『多文化世界 – 違いを学び未来への道を探る 原書第3版』です。

『異文化理解力』の著者エリン・メイヤー自身も、ホフステードの研究を参考にしていると自著内で述べていますが、このホフステードという人物はオランダの社会心理学者で、異文化研究のパイオニアと称される人です。

・ホフステードの6次元モデル

ホフステードは、1960年代からIBMで世界72か国・約11万6,000人の従業員を対象に調査を実施。その結果をベースに、さらに50年間かけて調査研究を続け、各国の国民文化や組織文化の違いを6つの指標に分類し、相対的に比較できるモデルを作り上げました。それが異文化理解の指標、「ホフステードの6次元モデル」と呼ばれるものです。この「ホフステードの6次元モデル」について、日本語で一度しっかり読んでみたいという人には、この本は必読の書です。

日本語訳の初版が1995年出版のため、古い内容と感じる人もいるかもしれませんが、長期間にわたり、実証的なデータを活用してまとめられた本書は、今でも大いに参考になります。各国の文化の違いを把握し、また日本の文化をより深く理解するために、一度読んでおいて損はしない良書です。

・文化の統合ばかりで、文化間の対立を見せていない

まえがき部分にも、この書籍をおすすめする理由の一つを表す文章があるため、ここに一部抜粋しておきます。

異文化体験の市場は拡大しているが、そのような講座や本は明るい面しか示していない。文化の統合ばかりで、文化間の対立を見せていないのである。ビジネスに興味のある人にはそのような明るいメッセージが好まれるだろうが、それは誤りである。カルチャー・ショックを経験せずに文化を学ぶことは、外国についての知識を自分の国にいる外国人の話だけで得ることと同じである。(iii まえがきより)」

●外国語だけでなく、「文化の違い」についてもしっかり学ぶこと

今回紹介した書籍の著者たちも自書内で指摘しているように、多文化チームを率いることはデメリットもありますし、異なる文化が出会うと対立も生じるのです。島国である日本国内に、観光客にしろ、留学生にしろ、大量の外国人を受け入れることは、ポジティブな面だけでなくネガティブな面も伴います。現実的に、ポジティブな面だけ受け入れることはできません。まずは外国語だけでなく、「文化の違い」についてもしっかり学ぶことです。その上で、これからの日本と日本人にとって、どうすることが最適なのかを考えて行動しましょう。

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