筆者は今までに約40ヵ国へ行ったことがありますが、日本ほど本屋に自国の漫画が大量に並んでいる国を見たことがありません。他国にも本屋はありますが、自国の漫画家による漫画作品の数が違うのです。しかも毎月毎月、新刊が出ます。雨後のタケノコのごとく、新人漫画家が登場してきます。日本人は遺伝子レベルで絵や漫画を描くことが好きなのでは?と不思議に思うほどです。
漫画もアニメも子ども向けのものだという外国人もいるかもしれませんが、それも文化の違いの一つです。そういう外国人には、まずぜひ手塚治虫『火の鳥』や藤子・F・不二雄のSF短編漫画などを読んでみてもらいたいですね。絵柄はかわいくても、人によってはトラウマになるレベルの作品ありますからね。
また筆者は子供のころ、スポーツ漫画を見てスポーツを始めた一人ですし、チームメイトもほとんど同じパターンでした。漫画がスポーツを始めるきっかけになるのは、漫画が持つ良い影響力の一つと言えるでしょう。
今回は日本の文化の一つとして、日本の漫画にフォーカスし、日本人なら一度は読んでおきたい日本の漫画を何冊か紹介します。
まずは80年代、90年代から今日まで様々な影響を与え続けている2冊です。
●漫画版『風の谷のナウシカ』
1982年に連載開始、途中映画製作で中断をはさみつつも、1994年に完結した漫画版の『風の谷のナウシカ』。劇場版アニメは、漫画版の1~2巻あたりの話をまとめたもので、漫画はその後アニメとはかなり違った展開をたどります。子供も読めますが、後半になればなるほど重厚な内容になってくるため、大人にこそ、ぜひ一度読んでもらいたい名作です。何より、サステナビリティやSDGsなどと言う前に、日本人は漫画版『風の谷のナウシカ』を読んでおけば充分なくらいです。
宮崎駿監督自身が漫画を描いているのですが、人物だけでなく、背景、動物、メカ、全てが緻密に描かれていて、これらはぜひ大き目のサイズで読んで欲しいクオリティです。
また、2023年5月12日に発売され、世界中で高評価の任天堂スイッチ用ゲーム『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』には、このナウシカ含めてジブリネタが満載です。虫だったり、瘴気だったり、●●だったり、気づく点が色々あります。
●『AKIRA』
80年代に人気だった作品からもう一つ、改めておすすめしたいのが『AKIRA』。現在に至るまで国内外にファンが多く、日本を代表するSF漫画です。特にSFやサイバーパンク系が好きな人ならば、一度読んでおいて損はしない作品です。
今現在人気の日本の漫画家の中にも『AKIRA』好きは多く、今でも『AKIRA』のシーンがオマージュやパロディとしてそれぞれの漫画作品の中に登場することがあります。筆者もそれに気づく度、「みんな金田のバイク、好きすぎ!」などと笑いながら見ています。
この漫画の舞台は2019年の東京なのですが、2019年を過ぎた今読むとまた違った観点から楽しめます。昔に読んだことがあるという人も、改めて読み直してみてください。
続いて、今連載中の作品や最近の作品からのおすすめです。筆者も子どものころ、少年ジャンプやサンデーで育った人間の一人ですが、ここではジャンプなどの週刊誌以外で一押しの漫画を選びました。男性でも女性でも読めるよう、あまり激しい暴力シーンなどがない作品を紹介します。
また、その年の話題作をチェックしたい人は、「このマンガがすごい!」といったランキングが毎年実施されているので、そちらをチェックしてみてください。
●『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』
全ての猫好きの人にお勧めしたい一冊、『ニャイト・オブ・ザ・リビングキャット』。猫に触られると人間も猫になってしまうウイルスのため、猫大好きな人間たちが心を鬼にして猫と戦いながら、何とか生き延びようとする漫画なのですが…キャッチコピーが「キャットフルホラー」です。北斗の拳かマッドマックスかというシーンも織り交ぜながらの「キャットフルホラー」。
劇画タッチと言いますか、絵柄の好みはあると思いますが、確実に猫好きのツボをついてきて笑いが止まりません。ちょっと昔の映画が好きな人は、さらに楽しめます。
●『宝石の国』
宝石の体を持つ人型生命体の一人である主人公が、戦いながら成長していく物語。作者が仏教関連の学校で学んだことから着想を得ているとのことで、SFやファンタジーっぽくもありながら、仏教的な思想や設定が散りばめられている点が特徴です。そのため、日本人や仏教圏の人間は理解できたとしても、それ以外の宗教圏の人には、この漫画の面白さは伝わりにくいかもしれません。が、ここは日本人の特権として、大いに楽しみましょう。
シンプルな絵柄で、序盤は可愛らしいシーンも多いのですが、後半は強くなることと引き換えに失うものも増え、予想外にハードな展開になっていきます。連載では最終回が近づいてきているのですが、一体どういう形で終わるのかというところも含めて、目が離せません。
●『ダンピアのおいしい冒険』
実在のイギリス人探検家、ウィリアム・ダンピアが記した『最新世界周航記』をベースにした、海洋冒険飯漫画『ダンピアのおいしい冒険』。「飯」とあるように、17世紀末の大海原を舞台に、現地の未知のものを食べまくります。当然、お腹も壊します。それでもこりない、ダンピアの好奇心に脱帽します。そして読んでいるうちに、読者も段々食べてみたくなってくるのです、プランテインとか。
同じ作者の『天幕のジャードゥーガル』も人気ですが、筆者はこちらの冒険譚をより押します。連載がちょうど完結し、描きおろしエピソードを加えた最終巻が準備中です。
この漫画の下敷きになっている、ウィリアム・ダンピアの『最新世界周航記』自体もおすすめです。漫画との違いを楽しむのもよいですし、冒険の合間に記録された、青ウミガメと赤ウミガメの味の違いなどについて楽しむのもよしです。ダンピアたちがウミガメを食べ過ぎたから、今絶滅危惧種になっているのでは…とふと疑問がわきますが。
●『タテの国』
最高の縦読み漫画とも言われる『タテの国』。絵柄は粗削りで決してうまいとは言えませんが、物語の設定がスマホやタブレットの縦スクロールに見事に合致していて、読み始めると止まりません。『タテの国』というタイトル通り、上から下へ縦一直線です。
筆者はこの漫画を読んで初めて、縦スクロールの漫画も十分アリだなぁと感心しました。横に読み進める従来の漫画では表現できない、新しい面白さです。未読の人は、是非一度体験してみてください。「少年ジャンプ+(プラス)」で読めますが、全部無料か一部無料かは確認を。
巻物にでもしない限り、紙での単行本化は無理なのでは…と思っていたところ、何と作者自ら、全コマ書き直して、今秋単行本化とのこと。しかも「巻物ではありません」とあります。今のうちに、最初の縦読みバージョンを読んでおきましょう。
最後に、日本の漫画は英語版や他言語版が出ていることもあるので、英語やその他外国語の学習に使おうと思えば使えます。ただやはり、セリフのちょっとしたニュアンス、冗談、効果音の見せ方などは、やはり日本人にとって日本語が一番です。日本人の場合、漫画は日本語で純粋に面白さに浸った方が良いですね。