英語や外国語を学んでいる人や、仕事で海外と接点がある人は、外国人とのやり取りの中で、どうしても国際関係や国際情勢といったものを意識する必要が出てきます。国と個人は別と言っても、一人一人の人間は必ずどこかの国と紐づいているからです。特にビジネスであれば、取引先の国やその周辺国の情勢が悪くなった場合、まず現地の状況を確認する必要がありますし、今後の付き合いをどうするかも考えなければなりません。
一方で、英語や他の外国語を学んでいない人、また特に海外に関係もないし興味もないという人でも、ロシアとウクライナの戦争が気になる人は多いでしょう。関連して食費や光熱費も値上がりが続き、日本はこれからどうなっていくのか不安に思う人もいるでしょう。
今回は、英語や外国語を学んでいる人や、仕事で海外と関係ある人、そうではないけれど日本の将来が心配という人に向けて、今日本人が読んでおいた方が良い、国際関係や国際情勢についての書籍5冊と、関連する本を数冊紹介します。
1.『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』
「地政学」という言葉を初めて聞いたという人、また聞いたことはあるけれど内容はよく知らないという人におすすめするのが、この『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』です。地図やイラストを活用して、地政学とは何かを非常にわかりやすく説明しています。この一冊で、アメリカの特徴、ロシアの特徴、中国の特徴、また東南アジアやヨーロッパの特徴、そしてこれらの地域の国がどうしてこういった行動や立場をとるのかも理解できます。
日本人はとかく、外国や外国人相手でも「みんな仲良くしよう」と思いがちです。しかし、日本の外は正反対です。まず自分のことを優先する人が大多数です。どこの国の人も、まずは自分と自分の家族を優先し、自国を優先します。
監修の奥山さんも「はじめに」の部分で指摘していますが、「多くの日本人が思うよりも、国際政治での国家のふるまいは冷酷で残虐です」。ここでいう冷酷がどういうことかは、この本を読めばわかります。世界では、自国のメリットを優先するのが当たり前であり、どこの国も善悪ではなく、利害で動きます。国と国との間に友情などないのです。
2.『西洋の自死 移民・アイデンティティ・イスラム』
続いては、ヨーロッパの情勢についての一冊。イギリスのジャーナリストによる本書は、まずイギリス国内でベストセラーになり、その後世界23ヵ国で翻訳され大きな話題になりました。なぜなら、タイトルの通り、ヨーロッパは移民政策で失敗してしまったからです。イスラム教徒を大量に受け入れた結果どうなったか、そもそも文化が異なる別の国の人を大量に受け入れるとどうなるのか、その実例を知ることができます。
ヨーロッパ各国の人たちは、キリスト教をベースにした文化や価値観を共有して生活しています。ところが、そういったヨーロッパの文化や価値観とは異なる、イスラム教徒の人々が移民や難民として大量にやってきた上に、ヨーロッパの文化や価値観に習おうとしなかった結果、現在の状況を招いてしまいました。以前はヨーロッパでも、新しくやって来た移民や難民は、現地の文化に同化することが前提であったはずなのですが…。
日本人がこの本から学べることは、「ヨーロッパですら移民の受け入れに失敗してしまったのだから、日本は同じことはやめよう」ということです。他国の失敗から学びましょう。
『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実 2011-2019』
『西洋の自死』では、「2015年にドイツのメルケル首相が難民受け入れのメッセージを発したこと」が、この混乱の引き金であったと指摘されています。そのドイツ一か国の状況について詳しく知りたい場合は、『移民 難民 ドイツ・ヨーロッパの現実 2011-2019 世界一安全で親切な国日本がEUの轍を踏まないために』をおすすめします。長年ドイツに住む筆者の川口さんが、「メルケルのスタンドプレー」と記した上で、ドイツの現状を解説してくれています。エッセイに近い文体で、日本人にも読みやすい一冊です。
3.『見えない手 中国共産党は世界をどう作り変えるか』
中国がアメリカ、イギリス、その他ヨーロッパ諸国でどのように浸透工作をしかけているか、その事例を大量に明らかにしている本書は、『目に見えぬ侵略 中国のオーストラリア支配計画』の続編に当たります。続編ではありますが、今作から読んでも問題ありません。巻末に補論として、日本人はどうすればよいかという対処法も掲載されているため、日本人にとっても非常に参考になります。
この本では、ビジネスの分野だけでなく、地方自治体、シンクタンクや研究機関、孔子学院を含めた大学等教育機関や留学生に対して、中国共産党がどう働きかけているか、様々な具体例を知ることができます。中国共産党が、アメリカやヨーロッパ各国、オーストラリアと同様の手法を、日本に対しても行っていることもわかります。
以下に、補論「日本は目に見えぬ侵略にどう対処するか」から、一部を抜粋して紹介します。
その国の重要人物、つまり政治家やジャーナリスト、そして学者たちに、マスメディアで中国の視点で語らせるのです。中国がどのように統治され、中国がどのように考え、どのような立場にあるか、正当化する弁明を言わせて、現地の人々の視点を操作しようとしているわけです。
このような実例をたくさん挙げています。書いていて気づいたのは、オーストラリアであれ、イギリスであれ、(中略、)日本など、中国共産党によって影響力を発揮するために実行されている計画の青写真はすべて共通していることでした。とりわけ個人的にとても興味深いと思ったのが、中国共産党が毛沢東の「農村から都市を包囲する」という戦略をどこでも採用していることです。(p.361-362)
『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』
日本人向けに、上記『見えない手』『目に見えぬ侵略』2冊のポイントをまとめた小冊子的な副読本も出ています。2冊の内容を40個の項目に分けて解説しているため、急いで要点を把握したい人は、最初にこの副読本を読むのも良い方法です。この副読本だけでも、各国の政治家や著名な学者が金銭だけでなく名誉欲などの弱い人間心理を利用されていること、意図的に地方や地方議員が狙われていること、主要メディアと記者が弱みを突かれていること、経済や文化交流すらも利用されていることなど、具体的な事例を把握することができます。
4.『1984年』
「ビッグ・ブラザー」、もしくは「ビッグ・ブラザーが見ている」という表現をどこかで見聞きしたことがある人もいるでしょう。その元ネタがこちら、ジョージ・オーウェルの『1984年』です。街中のテレビやマイクによって人々の行動が監視され、言論統制や歴史修正が行われる近未来を描いたSF作品で、今も欧米文化圏を中心に世界中で読まれている名作です。
この小説が世に出たのは1949年なので、今読むには古いのではと思う人もいるかもしれません。しかし現代の私たちも、防犯用の監視カメラやネットに接続されたスマホなどによって、似たような監視社会を生きているとも言えます。犯罪防止のために設置された監視カメラも、ある意味では「ビッグ・ブラザーが見ている」訳ですから。その監視カメラが中国製のために、以下のようなニュースも出ています。
【参考】「英議員67人、「中国製監視カメラ」の使用中止を政府に要求」
注意点としては、ディストピア作品の礎ともされる小説なので、面白い反面、読書後はあまり幸せな気分にはなれません。また、物事が本格的に動き出す前の部分にあたる第一部は、読み進めるのが苦痛に感じる人もいるかもしれません。しかし、第二部に入ると、ページをめくる手が止まらなくなります。なぜ今でもアメリカを中心にこの本が読まれているのか、その理由をぜひ読んで確認してみてください。
5.『動物農場』
SFはちょっと苦手という人や、『1984年』を読み始めてみたけれど途中でやめたという人には、オーウェルのもう一つの代表作『動物農場』をおすすめします。
こちらは、人間を豚や馬、羊といった動物に見立て、ソ連のスターリンの独裁をモデルに、全体主義、権威主義、独裁体制への疑問と批判を描いた寓話形式の小説です。寓話形式なので、文章自体はシンプルで読みやすいです。英語の原書も簡潔でわかりやすい英語で書かれているので、英語学習中の人は、英語の原書を読むのもおすすめです。
とある農場の動物たちが、人間の農場主を追い出して、自分たちで理想の国を作り上げようとする中、リーダーの立場に立った豚たちが独裁者に変貌していきます。より良い未来のために、体に鞭打って働いても、それらが全て悪い方に転がっていきます。人間社会を例えているだけに、何とも言えない気分になります。何より、ラストの恐ろしさ。この恐ろしさを物語の中だけに留めておくためにも、ぜひ一読を。
『一杯のおいしい紅茶』
『1984年』と『動物農場』を読むと、オーウェルの作品は全てこういった感じなのかと思ってしまう人もいるかもしれません。気楽にオーウェルの文章を楽しみたい人には、エッセイ集『一杯のおいしい紅茶』をおすすめします。文筆業の大変さ、また紅茶やビール、イギリス料理など、オーウェルの日々の生活の中のことについて、心穏やかに読むことができます。
●注意点
ここで紹介した書籍は、筆者はいずれも紙の本で内容を確認しています。Kindle版の場合は、違いがあるかもしれません。特に『1984年』と『動物農場』は、Kindle版だと序文などが未収録との話を耳に挟んだので、Kindle版での購入を検討している人は、内容に違いがないか、事前に確認することをおすすめします。